ユーザー調査概論
ユーザー調査概論
奥泉直子先生
UXリサーチとは
UXリサーチとは、UXDを支えるリサーチである。
UX = User eXperience
ユーザーエクスペリエンスとは、製品、システムまたはサービスを使用した時、および/または使用を予測した時に生じる個人の知覚や反応
ISO9241-210(2010)
UXリサーチは以下3点を知るための調査である。
- 人の内面
人の知覚と反応の裏にある人の感性や多様性、可変性といった人の内面を知るための調査
- 時間軸
時間軸による人の知覚と反応の変化を知るための調査
- 環境文脈
環境や文脈が人の知覚と反応にどのような影響を及ぼし得るかを知るための調査
UXリサーチの3大手法
- デプスインタビュー
- 日記調査
- エスノグラフィ(行動観察)
※必要に応じて組み合わせておこなう
ユーザーインタビュー
ユーザーインタビューとは
ユーザーの行動の裏にある気持ち、その気持ちを持つに至った経緯、その気持ちを支える動機といった“心の声”をユーザー自身に語ってもらう“場”
そもそもインタビューとは
Interview
Inter + view
相互に 見る
→インタビューする側もユーザーに見られている!
ユーザーが話しやすい聞き手でいることが大切。
インタビュアーの役割
インタビュアーが、インタビューの最中に常に意識しなければならないこと
- 場づくり
互いを信頼し合い、気兼ねなく、心を開いて語り合える関係をなるべく短時間に作り、最後まで維持する(ラポール形成)
- 舵取り
話の流れに乗ったり、必要に応じて進路を調整したりしながら、約束の時間に目的地に到着することを目指す
- 深掘り
問いに対する表面的な答えに満足せず、好奇心と共感力を持って、インフォーマントの深層心理へ少しずつ掘り進んでいく
問いかけ方
あらゆる方向から掘り進めてみる
例:「いつ?」「どこで?」「誰が?」「何を?」「どうやって?」「どのくらい?」「なぜ?」「例えば?」「他には?」「どう感じた?」
- クローズドクエスチョン(Yes/No)
認識のずれがないか確認する
例:「つまり〇〇ということ?」「AとBとC、どれが好き?」
ヒトの認知特性
インタビューは難しい。なぜなら人の記憶はあてにならない場合があるし、意識や自覚があったとしてもなかなかそれを言葉にできない。ときには話の中にウソや言い訳や取り繕いが混じることもある。
けれどこういったヒトの認知特性を理解しておくことで、インタビューのクオリティは上げることができる。
①記憶
人間の記憶は以下のように分類される。
短期記憶:一時的に保持される記憶で、必要なくなると忘れられる。
インタビュー中に気になったこと、あとで確認しようと思ったことは必ずメモ!
同じことを繰り返し聞いてしまい、「さっきも言いましたが、」となったらラポールも崩れてしまう
長期記憶
―宣言記憶
- エピソード記憶:個人的経験や社会的事象に関する記憶。日時や場所をトリガーとすると思い出しやすい。
期間、場所を狭めていくように聞く
「どんなときに幸せを感じますか?」→「最近「幸せだなぁ」と思ったことありますか?」「家飲みですか?それとも外で飲むのが好きですか?」
- 意味記憶:物事の意味を表す一般的な知識や情報についての記憶。間違えている可能性もある。
間違った認識こそ大切に、インフォーマントの頭の中を聞き出す
「インターネットじゃなく、グーグルで調べます」
「グーグルとインターネットは違うんですか?」
「インターネットはヤフーのことなので・・・」
-手続き記憶:箸の使い方、自転車の乗り方など“体で覚えた”記憶。言葉で説明するのは難しい。
説明が難しければ、持ってきてもらう/撮ってきてもらう
「普段のやり方を順を追って教えてもらえますか?」→「ちょっと見せてもらってもいいですか?」工夫すればいろいろできる!
②認知的不協和
信念・意見・態度などを含む我々の知識を<認知要素>と呼ぶ。自分の中にあった<認知要素>と、新たに与えられた<認知要素>の情報が矛盾する状態が<認知的不協和>である。人はこの状態を不快に感じ、この矛盾を解消しようとする。
引用元 コトバンク
例:「さっきああ言っちゃったから辻褄合わせないとな・・」
③選択的注意
「今日は○○について聞きます」と言っておきながらそれ以外のことを聞くのは×
時間が限られている場合などで、最初に話題を限定してしまうのは〇
例:「本日は日頃の健康対策の中でも特にお食事面について伺います」
④認知の相互作用
人間の情報処理にはトップダウン処理とボトムアップ処理がある。
リサーチでは、どちらがより主導的にはたらいているか、インフォーマントのトップダウン処理を推測するための想像力、ボトムアップ処理を理解するための観察眼が重要。
⑤先入観
前もっていだいている固定的な観念。それによって自由な思考が妨げられる場合にいう。
引用元 コトバンク
自分の先入観で勝手に判断せず、インフォーマントから事実を聞き出す!
⑥機能的固着
人間は道具に対して「これはこういうものだ」「こういう使い方をするものだ」といった固定概念を持つ。
例:ロウソク問題
⑦知識の呪い
一度分かってしまうと、分からなかったときのことを思い出せなくなる。
例:
「ミシシッピ川は1万マイルよりも長いか短いか、大学生の正答率はどれくらい?」
「ミシシッピ川は1万マイルよりも短い、大学生の正答率はどれくらい?」
⇒答えが提示されている後者の質問をされた方が、正答率を高く見積もる。
⑧確証バイアス
人間は自分の考えが正しいか否かを検証する際に、自分の考えを証明する証拠ばかりを探してしまい、反証情報に注目しない傾向が強い。これを確証バイアスと呼ぶ。
引用元 科学事典/社会心理学
インタビューをするときは、自分の仮説を一度忘れて臨むこと!
参考図書
- 奥泉 直子 (著), 山崎 真湖人 (著), 三澤 直加 (著), 古田 一義 (著), 伊藤 英明 (著)『マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書』マイナビ出版
- 中西祐介『「いい写真」はどうすれば撮れるのか?』技術評論社
- 菅俊一『観察の練習』NUMABOOKS
【行動観察】
【記憶】
【認知的不協和】
- エリオット・アロンソン (著), キャロル・タヴリス (著), 戸根 由紀恵 (翻訳)『なぜあの人はあやまちを認めないのか』 河出書房新社
- 内田樹『下流思考──学ばない子どもたち、働かない若者たち』講談社
【先入観】
【確証バイアス】
- トーマス・ギロビッチ『人間この信じやすきもの―迷信・誤信はどうして生まれるか (認知科学選書)』新潮社
【コミュニケーション】
【認知科学】
- デイヴィッド・ブルックス (著), 夏目 大 (翻訳)『あなたの人生の科学(上・下)』ハヤカワ文庫